EAAとBCAA、どっちを買うべきか?血中濃度で見る「筋肥大の最短ルート」

筋トレ

ジムの更衣室で、色とりどりのドリンクを得意げに振っている男たちを見るたび、私は複雑な心境になる。
彼らの情熱は本物だ。だが、彼らのシェイカーの中で起きている化学反応は、彼らが期待しているものとは程遠いことが多い。

「BCAAの方が吸収が早いと聞いた」
「EAAは高すぎるから、BCAAを多めに飲めばいい」
「プロテインがあればアミノ酸はいらない」

これらは全て、断片的な事実ではあるが、真実ではない。
ネット上の無料記事や、インフルエンサーのポジショントークに踊らされ、貴重な資金と時間をドブに捨てている男があまりにも多い。

この記事は、アフィリエイトリンクを踏ませるためのものではない。
あなたに「生化学的な武器」を授け、最短距離で筋肥大という結果を掴み取らせるための「戦術書」である。

なぜ、EAAなのか。
なぜ、BCAAでは「壁」を超えられないのか。
そして、具体的にどう飲み、どう血中濃度を操れば、爆発的な成長を引き出せるのか。

教科書には載っていない、現場の知恵と事実をここに公開する。


第1章:サプリメント業界が隠す「BCAAの正体」

議論を深める前に、残酷な歴史的事実を共有しておく必要がある。
なぜ一時期、これほどまでにBCAAが持て囃されたのか。

答えは「製造コスト」と「原料」にある。

かつてアミノ酸の精製技術が未熟だった頃、BCAA(バリン・ロイシン・イソロイシン)は比較的安価に抽出できた。
一方で、全9種類の必須アミノ酸(EAA)をバランス良く、かつ不味くない味で製品化するには莫大なコストがかかった。

メーカーは考えた。
「EAAを作るのはコストが合わない。ならば、安く作れるBCAAに『筋肉の特効薬』というストーリーを乗せて売ろう」

実際に、BCAAの筋合成シグナル効果(特にロイシン)は嘘ではない。
だが、それは「家を建てる命令(シグナル)」が出せるだけで、「建材(他のアミノ酸)」がないことを隠して販売された。
これが、BCAAブームの裏側にある冷徹な経済原理だ。

しかし現代、発酵法などの技術革新により、EAAの製造コストは劇的に下がった。
もはや、不完全なBCAAをあえて選ぶ経済的な理由は消滅している。

第2章:生理学が生む「絶望」と「希望」

ここからは少し専門的な話になるが、ついてこい。
筋肉が肥大するメカニズムを知らずにトレーニングするのは、地図を持たずに砂漠を歩くのと同じだ。

1. mTORC1というスイッチ

筋肉の細胞内には「mTORC1(エムトール・コンプレックスワン)」という酵素複合体が存在する。これが活性化すると、DNAからmRNAへの転写が促進され、タンパク質合成(筋肉作り)が始まる。

このmTORC1を起動させる鍵が、アミノ酸の「ロイシン」だ。
ここまではBCAA派の主張通りだ。BCAAにはロイシンが豊富に含まれている。

だが、問題はその次だ。
スイッチが入った瞬間、細胞は周囲を見渡す。「材料はあるか?」と。

2. リービッヒの最小律(桶の理論)

ここで、重要な概念を提示する。
栄養学における「アミノ酸の桶の理論」だ。

必須アミノ酸9種類は、木の板で作られた桶のようなものだと思ってほしい。
一番短い板(不足しているアミノ酸)の高さまでしか、水(筋肉)は溜まらない。

  • BCAAのみ摂取の場合:
    ロイシン、バリン、イソロイシンの板だけが異常に長い。だが、リジンやスレオニンといった他の板は低いままだ。
    いくらBCAAを流し込んでも、水は低い板の場所からジャジャ漏れになる。これが「筋合成の頭打ち」だ。
  • さらに恐ろしい「カタボリックの誘発」:
    ここが最重要だ。
    BCAAによって強力な「合成命令」が出ているのに、材料がない。
    すると体はどうするか?
    「既存の筋肉を分解して、足りないアミノ酸を調達しようとする」可能性がある。

良かれと思って飲んだBCAAが、逆に筋肉を削る。これほどの悲劇があるだろうか。

3. EAAによる「血中アミノ酸プールの飽和」

EAAを摂取するということは、9枚の板すべてを同時に高くすることを意味する。
スイッチ(ロイシン)を押しつつ、トラック一杯のレンガ(他の必須アミノ酸)を現場に送り込む。

血中の必須アミノ酸濃度が十分に高まった状態(飽和状態)で、トレーニングという物理的刺激が加わる。
この時初めて、筋肉は最大効率で合成される。
これが、私がEAA以外を認めない生理学的根拠だ。

第3章:実証実験に基づく「最適解のプロトコル」

理論はわかった。では、具体的にどう動くか。
ここからは、私が自分の体を使い、検証を繰り返して導き出した「具体的な摂取戦略(How)」を公開する。

ネット検索で出てくる「トレーニング中にチビチビ飲む」だけでは甘い。

戦略1:濃度ピークの「先読み」

多くの初心者が犯すミスは、トレーニングが始まってから飲み始めることだ。
アミノ酸が血中に移行し、濃度がピークに達するには、摂取後約15分〜30分かかる。

ベンチプレスで最初のセットを行う瞬間、すでに血中濃度はピークでなければならない。

  • Action:
    トレーニング開始の20分前に、EAAの全量の1/3を一気に飲み干せ(ボーラス摂取)。
    これにより、ジムに足を踏み入れた瞬間、お前の血液は「合成モード」になっている。

戦略2:インスリンという「輸送トラック」を使う

ここが有料級の「知恵」だ。
EAA単体でも効果はあるが、それを筋肉の中に無理やり押し込むポンプが必要だ。
それがホルモン「インスリン」だ。

インスリンは血糖値を下げるだけでなく、血液中のアミノ酸を筋肉へデリバリーする強力な作用を持つ。
EAAの効果を倍増させるには、糖質(カーボ)との同時摂取が必須条件となる。

  • Action:
    EAAドリンクには、必ずマルトデキストリン(粉飴)か、より胃腸への負担が少ないCCD/クラスターデキストリンを混ぜろ。
    目安は、体重×0.8g〜1.0gの糖質だ。

第4章:BCAAが唯一「輝く」瞬間

ここまでBCAAを否定してきたが、私の手元にBCAAがないわけではない。
EAAが「筋肥大の王」なら、BCAAは「精神の盾」として機能する局面がある。

それは、「減量末期の空腹時有酸素運動」「覚醒維持」だ。

脳は疲労を感じると、トリプトファンというアミノ酸を取り込み、セロトニン(リラックス物質)を生成する。これが「集中力の低下」を招く。
BCAAは、このトリプトファンが脳へ入るのをブロックする競合阻害作用を持つ。

つまり、
「今日は筋肉を大きくしたい」→ EAA一択
「減量中でカロリー制限が厳しく、フラフラになりながら長時間有酸素をする」→ BCAA

このように使い分けるのが、熟練者のやり方だ。
だが、バルクアップ(増量・筋肥大)を目指しているお前が、今あえてBCAAを買う必要はない。

第5章:よくある質問への「冷徹な回答」

読者から届くであろう質問に、予め答えておく。

Q. プロテイン(ホエイ)では代用できないのか?
A. タイミングが違う。
ホエイプロテインにもEAAは含まれているが、消化吸収に60分〜90分かかる。
トレーニング中の「今、この瞬間に欲しい」という需要には間に合わない。
トレーニング中はEAA、終わった後のゴールデンタイムや間食にはプロテイン。役割を混同するな。

Q. EAAは不味いと聞くが?
A. 黙って飲め。
と言いたいところだが、最近のフレーバー付きEAAはジュースのように美味い。
ただし、ノンフレーバー(プレーン)は、タイヤのゴムと洗剤を混ぜたような味がするので、初心者には勧めない。継続できなければ意味がないからだ。

Q. EAAを飲むと下痢をする。
A. 浸透圧の問題だ。
一度に濃い液体が腸に流れ込むと、体は水分を出して薄めようとし、それが下痢になる。
水を増やすか、飲むペースを落とせ。あるいは「ビターオレンジ」などが含まれていないか確認しろ。それでもダメなら、1回量を減らして回数を分けろ。自分の胃腸の強さを把握するのも訓練の一つだ。

結論:迷いを捨て、濃度を高めろ

長くなったが、結論をまとめる。

  1. BCAAは買うな。 EAAを買えばBCAAも含まれている。大は小を兼ねる。
  2. メーカーの推奨量は無視しろ。 パッケージの裏面よりも、自分の肉体が求める量を優先せよ。
  3. 糖質とセットで運用しろ。 インスリンという輸送網を使わなければ、宝の持ち腐れだ。
  4. 開始20分前にチャージしろ。 戦場に着いた時点で、血中は満タンにしておけ。

体を変えるというのは、こうした地味で緻密な作業の積み重ねだ。
魔法の粉はないが、化学反応は嘘をつかない。

もしお前が、次回のトレーニングからこのプロトコルを忠実に実行できるなら、3ヶ月後の体の張り、バスキュラリティ(血管の浮き出し)、そして扱える重量は、現在とは比較にならない次元にあるはずだ。

知識は手に入れた。あとはやるか、やらないか。
冷めたシェイカーを持って、熱いトレーニングをしてこい。

以上。

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