執筆者:レイ(ゼロから男磨きラボ)
酒は、筋肉を裏切るのか。
この問いに、多くのトレーニーが頭を抱えていることだろう。
「付き合いも仕事のうち」とされる社会人にとって、完全な禁酒は現実的ではない場面も多い。上司からの誘い、クライアントとの接待、あるいは日々のストレス発散。酒を飲む理由は無限にある。
だが、ジムで積み上げたベンチプレスの重量や、鏡の前で絞り始めた腹筋が、たった数杯のアルコールによって無に帰す恐怖は、痛いほど理解できる。私自身、かつては80kgの肥満体であり、運動経験ゼロからベンチ110kgを挙げる身体を作った。その過程で、幾度となく飲み会の誘惑と戦ってきた。
重要なのは「酒を飲むか、飲まないか」という極端な二元論ではない。
人体のメカニズムを正しく理解し、医学的な知見に基づいて「いかに対策(ダメージコントロール)するか」だ。
今回は現役看護師としての視点から、アルコールが筋肉に与える生理学的影響(Why)を深く掘り下げ、その被害を最小限に食い止めるための具体的な「武器と戦術」(What)について、徹底的に解説する。
1. 医学的根拠:なぜアルコールは筋肉を破壊するのか
まず、残酷な事実を直視してほしい。
アルコールを摂取した瞬間、貴様の体内では筋肉の合成(アナボリック)よりも、毒素の「解毒」が最優先される。これは生命維持のための防御反応であり、根性論では覆せない生理現象だ。
なぜ酒が筋肉にとって「毒」なのか。そのメカニズムを3つの観点から解説する。
肝臓のオーバーワークと代謝の停止
肝臓は人体の化学工場だ。「アルコールの分解」だけでなく、「タンパク質の合成」や「脂肪・糖の代謝」も担っている。しかし、アルコール(アセトアルデヒド)は人体にとって猛毒であるため、肝臓は何を差し置いてもこの処理にかかりきりになる。
通常であれば筋肉に運ばれるはずのアミノ酸や、エネルギーとして消費されるはずの脂質・糖質は、肝臓が手一杯であるために処理待ち状態となる。行き場を失った栄養素は、そのまま体脂肪として蓄積される。これが「酒で太る」の正体であり、筋肉に栄養が届かない主たる原因だ。
「mTOR」の抑制と「コルチゾール」の増加
筋肉を大きくするためには、細胞内のシグナル伝達物質である「mTOR(エムトール)」の活性化が不可欠だ。しかし、複数の研究において、アルコール摂取がこのmTORの働きを著しく抑制することが示唆されている。つまり、どれだけハードにトレーニングしても、その後の酒によって「筋肉を作れ」という命令がかき消されてしまうのだ。
さらに悪いことに、アルコール摂取はストレスホルモンである「コルチゾール」の分泌を促進する。コルチゾールには、筋肉を分解して糖を作り出す(カタボリック)作用がある。酒を飲んで陽気になっている間、体内では筋肉が分解され続けている可能性があるということだ。
睡眠の質の低下と成長ホルモン
「寝酒」などという言葉があるが、医学的に見ればアルコールは睡眠を破壊する。
アルコールは入眠を早める一方で、睡眠の後半におけるレム睡眠を抑制し、眠りを浅くする。筋肉の修復や合成に不可欠な「成長ホルモン」は深い睡眠中に分泌されるため、睡眠の質が低下すれば、筋肥大の効率はガタ落ちになる。
2. 戦闘準備:飲み会前の「プレ・ワークアウト」
戦いは、居酒屋の暖簾をくぐる前から始まっている。
空腹状態でいきなりアルコールを流し込むのは、防具なしで戦場に出るようなものだ。アルコールの吸収速度を緩やかにし、肝臓への負担を減らすための準備を行え。
空腹を回避する
空腹時に酒を飲むと、アルコールは胃を素通りして小腸で急速に吸収され、血中アルコール濃度が急上昇する。これを防ぐために、飲み会の30分〜1時間前に軽い食事を摂ることを推奨する。
おすすめは、消化に時間がかかり胃に留まるものだ。
- プロテイン(牛乳割り):カゼインプロテインや牛乳に含まれる脂肪分が胃壁を保護し、吸収を遅らせる。
- チーズやナッツ:良質な脂質を含む軽食は、アルコールの急激な吸収に対するバリアとなる。
肝臓保護サプリメントの投入
後述するが、肝機能をサポートするサプリメントをこのタイミングで摂取しておくのも有効だ。アルコールが体内に入ってくる前に、防御壁を構築しておけ。
3. 実践:飲み会を生き残る「選択」と「知識」
いざ飲み会が始まったら、何を飲み、何を食うか。
場の空気を壊さずに、かつ自分の身体を守るための「選択」を行え。
酒の種類の選択(蒸留酒 vs 醸造酒)
これは基本中の基本だ。
ビール、日本酒、ワインなどの醸造酒は、アルコールそのもののカロリーに加え、糖質が含まれている。「筋肉を落とさず脂肪をつけない」ことが目的であれば、これらは避けるべきだ。
選ぶべきは「蒸留酒」だ。ウイスキー、焼酎、ジン、ウォッカなどは、製造過程で糖質が取り除かれている。
- ハイボール:最強の選択肢の一つ。炭酸で腹も膨れる。
- ウーロンハイ・緑茶ハイ:お茶のカテキンによる抗酸化作用も期待できる。
- 生レモンサワー(甘味料なし):ビタミンCが摂れるが、店によっては砂糖たっぷりのシロップを使う場合があるので注意が必要だ。
最重要:水による「希釈」
酒の種類以上に重要なのが「水分摂取」だ。
アルコールには強力な利尿作用がある。ビールを1リットル飲めば、1.1リットルの水分が失われると言われている。脱水状態の筋肉は、パンプもしなければ合成もしない。ただ萎んでいくだけだ。
ルールはシンプルだ。「酒と同量の水を飲む」。
これだけで、体内のアルコール濃度は薄まり、アセトアルデヒドの排出が促進され、翌日の二日酔いリスクも激減する。トイレに行く回数が増えるのは、代謝が回っている証拠だと思え。
つまみの選択(PFCバランスの死守)
肝臓がアルコール処理に追われている状態で、脂っこい唐揚げやフライドポテトを放り込むのは自殺行為だ。代謝されなかった脂質は、すべて腹周りの肉になると心得ろ。
選ぶべきは「高タンパク・低脂質・ビタミンB群」だ。
- 枝豆:植物性タンパク質に加え、アルコール分解を助けるメチオニンが含まれる。
- 刺身・タコわさ:良質なタンパク質とタウリンが肝臓を助ける。
- 焼き鳥(塩):タレは糖質の塊だ。必ず塩を選べ。レバーや砂肝はビタミン・ミネラルも豊富でおすすめだ。
- 冷奴・だし巻き卵:安定のタンパク源だ。
4. 必要な「武器」:ミルクシスルとサプリメント戦略
食事や酒の選択だけではカバーしきれないダメージを、科学の力で補強する。
私が実際に愛用し、医学的見地からも推奨できる成分を紹介する。
ミルクシスル(マリアアザミ)
日本ではまだ一般的ではないが、欧米のトレーニーや健康志向層の間では、肝臓ケアの「絶対的エース」として君臨しているハーブだ。
主成分である「シリマリン」には、強力な抗酸化作用があり、肝細胞をアルコールや毒素のダメージから保護し、再生を促進する働きがあるとされている。
飲む前、あるいは飲んだ後のケアとして、これを利用しない手はない。iHerbなどの海外通販であれば、安価で高品質なものが手に入る。
L-システイン / NAC(N-アセチルシステイン)
アセトアルデヒドを無毒化するためには「グルタチオン」という抗酸化物質が必要になる。このグルタチオンの材料となるのがシステインだ。
ハイチオールなどの医薬品にも含まれている成分だが、サプリメントとして摂取することで、肝臓の解毒処理を強力にバックアップできる。
ビタミンB群・ビタミンC
アルコールの分解過程で、大量のビタミンB1やナイアシンなどが消費される。これらが枯渇すると、倦怠感や代謝低下の原因となる。また、ビタミンCはアセトアルデヒドの分解を助けるとも言われている。マルチビタミンで十分なので、飲酒前後に多めに摂っておくことを推奨する。
5. Q&A:よくある疑問を論破する
読者から寄せられるであろう、具体的かつ切実な疑問に答えよう。
Q1. どうしてもビールが飲みたい。最初の一杯だけならOKか?
A. 許容範囲だ。
ストレスはコルチゾールを呼ぶ。「絶対に飲んではいけない」という強迫観念でストレスを溜めるくらいなら、最初の一杯だけビールを楽しみ、二杯目からはハイボールに切り替えるのが賢い大人の運用だ。ただし、その一杯分の糖質とカロリーは計算に入れておけ。
Q2. 筋トレをした当日に飲み会がある。どうすればいい?
A. 本来なら避けるべきだが、避けられないなら「時間」を空けろ。
トレーニング直後はゴールデンタイムだが、ここで酒を飲むと全てが台無しになる。トレーニング終了から飲み会開始まで、最低でも2時間、できれば時間を空けて、その間にプロテインと炭水化物をしっかり摂取し、筋肉への栄養補給を完了させておくことだ。
Q3. 二日酔いになってしまった。翌日の筋トレは休むべきか?
A. 休め。
二日酔いの状態でトレーニングをしても、パフォーマンスは上がらず、脱水による怪我のリスクが高まるだけだ。さらに肝臓がダメージを受けている状態で高強度の負荷をかければ、疲労は抜けない。
その日は「完全休養日」と割り切り、大量の水とビタミンを摂って肝臓の回復に全力を注げ。それが最短で復帰する道だ。
Q4. チートデイとして、好きなだけ飲んで食ってもいいか?
A. 目的による。
減量末期で代謝が落ちている状態なら、起爆剤としてあり得るかもしれない。だが、単なるストレス発散としての暴飲暴食は、積み上げた数日分の努力を一晩で消し去る威力がある。「チート(騙す)」のは代謝であって、自分自身の弱さではないことを忘れるな。
結論:知識があれば、酒は怖くない
「飲み会があるから身体が変わらない」
「付き合いが多いから腹が出ている」
これらは全て、思考停止した弱者の言い訳に過ぎない。
厳しい言い方かもしれないが、事実だ。
- アルコールが筋肉を分解するメカニズムを知る。
- 蒸留酒を選び、水を飲み、脂質を避ける。
- ミルクシスルなどの「武器」で肝臓をガードする。
この3点を徹底すれば、社会人としての付き合いをこなしながら、ベンチプレス110kgを挙げ、引き締まった肉体を維持することは十分に可能だ。
重要なのは、そのグラスを口に運ぶ瞬間に、自分の意志でコントロールしているかどうかだ。
酒に飲まれるな。酒を管理しろ。
貴様が目指しているのは、ただ筋肉がついているだけの男か?
それとも、自分の欲望も、肉体も、人生さえもコントロールできる「強い漢」か?
答えが決まっているなら、今夜の行動から変えてみせろ。



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